「日本振袖始」は、古事記・日本書紀に記された出雲の八岐大蛇(やまたのおろち)伝説をもとに近松門左衛門が書き上げた演目です。
出雲国の山奥に八つの頭をもつ大蛇・八岐大蛇が住みついていた。村人はその祟りを恐れ、生贄として毎年一人ずつの美しい娘を差し出していた。大蛇は岩長姫の姿をとり、この年の生贄である稲田姫を襲おうとする。しかしふと酒の香りに気付くと、先に八つの甕(かめ)に入っていた酒を飲み干し、最後は稲田姫も飲み込んだ。そこに稲田姫の恋人である素戔嗚尊(スサノオ)が駆けつける。素戔嗚尊は過去に、大蛇に十握の宝剣を奪われていた。大蛇を退治するため、素戔嗚尊は前もって八つの甕の酒に毒を仕込んでいた。毒酒に酔った岩長姫は大蛇の本性を表すと、素戔嗚尊と激しい戦いを繰り広げる。
呑取日本号(のみとりにっぽんごう)
生野 四郎
ある年の年頭のこと、主君 黒田長政の名代として母里太兵衛が福島正則のもとを訪問し、新年を祝賀する口上を述べました。福島邸では新年を祝う酒宴の真っ最中。福島正則はすでに酩酊状態でした。盛んに酒をすすめられますが、母里太兵衛は「失礼があっては」と固辞。すると不意に福島正則が、黒田長政の悪口を言いはじめたのです。
人一倍忠義に厚い母里太兵衛は、黙っていられません。福島正則に酒呑み勝負を挑みました。すると、福島正則は巨大な盃に大量の酒を注ぎはじめ、「これを飲み干せば好きな物を取らせる」と宣言。母里太兵衛はそれを聞き、「飲み干したら日本号を所望したい」と申し出たのです。そして、母里太兵衛は大杯になみなみと注がれた酒を一気に飲み干し、涼しい顔で日本号の槍を手にして、意気揚々と引き上げていったのです。
翌日、素面に返った福島正則は狼狽しました。なぜなら日本号は、豊臣秀吉から下賜された家宝とも言える槍だったのです。何度も使者を送り「返して頂きたい」と申し入れてきましたが、母里太兵衛は一蹴。最後まで日本号を返すことはありませんでした。この逸話から、日本号は別名「呑取」と呼ばれるようになったのです。
総務:山本 成嗣