京都五條橋之上(キョウノゴジョウノハシノウエ)
亀田 均
平安時代末期、京では武蔵坊弁慶という荒法師が夜な夜な五条大橋に現れ、道行く人の刀を奪い取り恐れられていました。
弁慶は奪った刀を『千本集める』との悲願を立て、今夜がその千本目。
弁慶が大橋の真ん中で待ち構えていると、澄んだ笛の音が響いてきます。
弁慶がそちらを見ると、さらさらとした被衣を頭からかぶり、横笛を吹いて颯爽と歩いてくる若者がいます。彼こそが牛若丸、後の源義経です。
然しもの弁慶もその美しい音色に聞き惚れてしまいますが、牛若丸の腰に差した立派な太刀に目を留めます。弁慶はその太刀を気に入り、直ぐさま奪い取ろうと長刀を振り回し牛若丸に襲い掛かります。しかしながら、幼少の頃に鞍馬山の天狗から兵法・剣術の修行をした牛若丸は欄干の上を飛び退き、弁慶の攻撃をいとも簡単にかわし、更に挑発を繰り返します。
憤慨した弁慶は激しく打ちかかりますが、牛若丸の燕のような早業に翻弄され、返り討ちに遭います。
弁慶は潔く降参し、牛若丸『義経』の家臣となることを誓います。
後に義経は兄の源頼朝と共に源平合戦で宿敵平家を滅ぼし悲願達成を果たします。
その幾多の戦いには、常に忠臣・弁慶の姿がありました。
この飾り山笠は、平家討伐に功名を立てた牛若丸(義経)とその忠実な家臣・弁慶とが若き日に京の五条大橋にて出会う(決闘)する場面です。
古事記稲羽素兎(コジキイナバノシロウサギ)
今井 洋之
昔々、隠岐島に兎が住んでいました。兎は対岸の気多(因幡国気高郡、鳥取県周辺)に渡りたいと思っていました。
そこで兎は、海にすむ和邇(鰐、または鮫)を騙して『私たちとあなたたちの一族のどちらが多いか比べよう。』と言い、和邇たちを隠岐島から気多の岬まで並ばせて、その上を飛んで数えながら渡りました。しかし、地に下りようとしたとき、兎は和邇たちに『お前たちは騙されてのだ。』と言ってしまいました。
すると兎は和邇たちに捕まり毛を剥ぎ取られてしまったのです。
兎が苦しみのあまり泣いていると、稲羽(因幡国、鳥取県東部)に住む八上比売に求婚に向かった大国主神の数多くの兄弟神である八十神たちが通りかかりました。
意地悪な八十神たちは哀れな兎をからかい、『海水を浴び、風に当たってから、山の峰でうつ伏せになりなさい。』と嘘の治療法を教え、兎がその通りにすると更に体が傷つき。苦しみが増してしまいました。八十神たちの従者として遅れて歩いていた大国主神が気多の地を
通りかかったとき、痛みに苦しんで泣いているその兎に出会いました。
兎から泣いている理由を聞いた大国主神は、意地悪な八十神たちとは違い、兎に『川の水で身を洗い、蒲の花粉を取ってその上で寝転がりなさい。』と正しい治療法を教えました。
兎が教えられた通りにすると傷ついた体は元通りに治りました。
兎は心優しい大国主神にとても感謝し、『八十神たちは八上比売を得られず、あなた様は必ずや八上比売と結ばれることでしょう。』と申し上げ、その通りになりました。
この飾り山笠は神話稲羽の素兎で大国主神が兎を助ける場面です。